KISWEC 通信 No.3 (2003年9月30日発行)

  • なお のぞみを抱いて
    理事長 所  久 雄

    荒廃の中から

     戦後五八年目を迎えた。戦前、戦後とりわけ敗戦を体験してきた私どもの世代は、湾岸戦争以降、九・一一アメリカに対するテロ攻撃、アフガニスタン侵攻、イラク戦争と続いて、まるでゲームのようにテレビで実況放映されることに大きな戸惑いと痛みを抱いてきた日々である。武力に訴えることが更なる悲劇を生み出すことがどうして解らないのだろうか。

     問題は国際関係だけではない。国内では精神の荒廃としかいいようのない粗暴で凶悪な事件が続発している。見たくない、聞きたくない、語りたくもない出来事の連続、一体誰がこんな国にしてしまったのか。悲痛な思いを抱いているのは決して少数ではないと思っているのであるが、さてどうしてとなると気の遠くなる問題である。一二歳の少年が四歳児を殺めた事件は全国民に大きな衝撃を与えた。私はたったの一日でもよい、一時間でもよい、全国民が多忙な業務を中止して、喪に服し幼児の死を悼み、この国の将来を考える時として欲しいというメッセージを為政者、関係者から聞きたいと願った。

     わが国の病理は深い。どこかでその根をたたねばならないと願っているのは国民の大多数である筈だ。そしてこの病理のよってくるところが、戦後復興の中で、自己中心 ― 自分のことだけが大切で他人のことなど考える余地がなかったことに由来しているのではないかと考える。好景気の中では顕在化しなかったことが不況リストラ、社会不安の中で益々その本性を現しはじめたと思われてならない。


    のぞみを抱いて

     福祉は対面する人々、周囲の人々の幸せを願うことから出発する。まず自己ありきではない。世の多くの人々の中の一人として自己が存在していること、そして多くの人々と共に生きる喜びや悲しみ、苦労をも共有して生きようとするところから出発している。

     私どもの法人は事業を開始してから今年三〇年目を迎えている。京都市から知的障害者の授産施設の委託をという話があった一九七三年(昭和四八)のことであるが、「一八歳以上で雇用されることが困難な知的障害者云々」という法文を読みながら、この人たちに一方的な保護的な福祉を押し付けるのではなく、共に働きながら道を見出していくことが大切であると受け止めた。そこで「全ての人に働く喜びとのぞみを」をモットーとした。

     のぞみ学園の命名はここにある。のぞみ、希望とはまだ手にしていない将来的願い、ビジョンを意味している。願いが実現してしまえばそれはもはやのぞみではない。額に汗しながら、共に働きかけ、働きかけられながら一緒に目標をめざして歩みつづけるその過程、途上にあるといえよう。

     年間の自殺者が三万人を超えたといわれる程、暗くて出口のなかなか見えない時代といわれる。しかしながら、もし人々に尚のぞみがあるなら誰しも生きられる。のぞみは黙して座っていても棚からぼた餅のように降って来るものではない。独りではなく多くの人々と共に働く中で与えられ膨らんでいくものである。

     法人としてののぞみはまだまだある。世のニーズに応えて働く工場、働く場づくりもそのひとつである。




    研修を終えて
    京都市みぶ学園 内田 琢也


     今年の4月から3ヶ月間スイスのチューリッヒの近くにある障害者の方の施設で研修を受ける機会をいただきました。施設では、働く場所やデイサービス、居住ホームなどで研修させていただきました。海外の福祉実践を少しでも感じることが出来ればとの思いを持って研修に臨んだのですが、実際に研修を受ける中で改めて考えさせられたことが多くありました。

     「スイスの福祉は進んでいるの?」と研修を終えて帰国してから何人かの方から同じような質問をもらいどう答えたらよいのかと考えてしまうことが何度かありました。というのは、研修を受けている間にあらためて福祉って何だろう?という思いを強く持ったからです。研修をさせていただいた施設を通して触れた実践には非常に魅力的なものが多く、また多くの刺激も受けました。施設の中での実践で驚いたことをいくつか挙げれば、人的資源の使い方、住空間などの個人のスペースを大切にしていたりすることです。人的資源の使い方としては、日本に比べ働き方に幅があると言うことです。一口に職員と言っても、週に42時間働く人もいれば半分しか働かない人、学校に通いながら働いている人など様々で、それぞれの目的に合わせて働いておられるようです。働き方に差があっても労働者に対する保障は充実しているなど、労働に対する考え方も違うようでした。人の集め方も間口は広いようですが、専門的な勉強をしていないと給料に差があるなど研修などを通して常にさまざまなことを学ぶような努力も一方では求められているようです。働き方などを見ていて、それぞれの人を活かし、お互いを酷使しないあり方をそれぞれの方が意識し、誇りに思っておられるように感じました。

     住空間などについても、本当にゆったりとしていることにあらためて驚かされました。一人一人が落ち着けるような雰囲気作りは、常に意識されているようであったし、同時にお互いに集える場所(リビングルーム)というのも大切にしていました。そして天気がいい日などは、外で食事をするなど限られたものを上手く利用しながら生活の中身を豊かにしているようでした。設備の面でも必要な部分には十分な投資をして、物を大事にしながら有効に利用していました。他にも魅力的な実践は多かったのですが、それにもまして、そういった実践を生み出している社会の奥の深さ、社会資本の厚さというものにも感心させられました。福祉いう言葉がいろいろなものの受け皿として使われているのではなく、福祉がより活かされるために、例えば教育であり、雇用・労働条件であり、まちの作り方、くらし方といった社会の基盤、土台がしっかりしており、大切にしている、そんな風に感じることが多かったです。労働に対しても、働くことによって人を酷使すると言うよりかは、働く事を楽しめる、そんな余裕を社会全体が持っているような感じでしたし、町の作り方でも、石の文化と木の文化の違いはあるとは思いますが、旧市街など昔の町並みは、町並みとして大切にし内側だけ改装するなど活かしつつ、新たな町並みを築いていったり、土産物屋や、スーパーなどでも日曜日は休んでいたり、国鉄などには、決められた料金を払えば自転車や犬も一緒に乗れたりと日本でのくらし方とは又違ってゆとりをもちながら、限りあるものを大切にし、守りながらいろんな意味で豊かにくらそうとしているようでした。日本では、利便性のために深夜までスーパーが営業されているなど、一見便利そうに見える生活に染まっていますが、休むときは休み、働くときは働くそんなあたりまえのことを大切にし、実行出来る社会のつよさを感じました。それぞれの生き方やくらし方を大切にし、単に物を消費するだけでなく創り出す事にも価値を置いているそんな姿勢が福祉にも影響しているように思えました。例えば、私が研修させていただいた施設では、働くということを通して(カーペットなどの自主製品や企業からの下請け)地域への参加をしていたり、理念だけにとらわれることなく現実の状況から学び、新たなことにチャレンジし、開拓していくことを大切にしているということでした。

     スイスという社会のシステムの中でも離婚率の上昇や青少年の薬物問題、移民難民の問題、経済などいろいろな問題は抱えているようですが、そういった問題にどのように対応していくかも含めて社会の仕組み、姿勢などまだまだ学ぶべき点が多い、そんな思いを強く持ちました。福祉を考え、学び、実践していく上で社会の姿勢であり、何に価値を置くのか、そして社会の基盤の重要性、現実の中から考えていくことの大切さ等々、当たり前の事なのかもしれませんが、私にとっては、改めて考えさせられる機会となりました。

     海外の福祉に関心のある方が安心して研修を受けられるといった機会の大切さ、そしてまた関心のある人が一人でも多くこの研修に参加して欲しい、そんな思いをこの研修を終えてあらためて感じています。また、多くの人に支えていただきこの事業が長期にわたって継続して行われているということの重みも感じました。3ヶ月という有意義な研修の機会を与えていただきどうもありがとうございました。

    (施設の紹介) 
    Stiftung fur Behihderte
    (障害者のための財団法人)
    Orte zum Leben   
     レンツブルグという町とオブレントフェルデンという村の二箇所で知的障害や身体障害を中心とする方々の施設を運営しています。私は、レンツブルグの施設で研修を受けさせていただきました。約200人の方が施設利用されていました。大まかな法人の機能としてはWerkstatt Industrie(働く場所)、Tagesstatte(軽作業をする場所)、Wohnhaus(居住施設)、BerflicheAusbildungen(職業訓練施設、1〜2年働く技術を学ぶ)にわかれていました。居住施設と軽作業をする場所など重複して利用されている方も多いです。そのあたりの考え方も違うようでした。


    「すべての人に働く喜びと生きるのぞみ」を!
    京都市みぶ障害者授産 所長 高木 進


     四十二年間勤めた京都市役所を定年退職し、この4月より当法人のスタッフに加えていただきました。
     三十数年前(昭和四十六年)行政の一担当者として当センターの進入路の買収や「京都市のぞみ学園」の建設そして法人設立のお手伝いをさせていただいたことが昨日のように思い起こされます。こうした縁ある職場に仕事を与えていただいた京都市と法人に感謝しております。

     さて、この夏は世の不景気を他所に、みぶ授産所は仕事が溢れ、利用者の中には休み時間がきても作業を止めない者や、お盆休みに入っても仕事を持って帰る者がでてくる始末。職員も夏休みを返上し、納期に間に合わせるため必死に取組むなど活気づいていました。

     施設の作業能力に合わせ受注を調整すれば良いのですが、世の中はそう甘くはありません。施設開設いらい十七年、納期に注文をつけた為、発注を断られた苦い経験が何度もあり、いまでは全部お受けし、能力を越える部分は他の施設にご無理をお願いしています。

     施設長として、あまりの負担に何か良い方法はないかと考えたのが、施設の作業能力を越える部分について学生のアルバイトを雇い、その収益を賃金として支払うということでした。収支トントンであれば問題はないだろうと原価計算をしたところ唖然としました。当施設で一番収益率の高い建築資材の加工でさえ一〇〇円の収益を生み出すのに百三十円の賃金が必要なのです。紙工などの軽作業だと五百円かかっているのです。仕事をすればするだけ損がでるのです。収支上は一日何もせずに遊んでいるのが一番良いということになります。福祉職場における「授産」の実態を再認識しました。

     先般、話に聞いていました一〇〇円ショップに始めて入りました。カッターナイフとラジオペンチを購入しながら、これが、どうして一〇〇円でできるのか、店の利益・運送代・製造会社の利益そして原材料代と考えると一体これを作っている労働者の賃金はどれぐらいのものか、パックの裏をみると全てメイドインチャイナ、中国の労働者の姿が当施設の利用者の姿と二重写しになり、当法人のモットーとしている「すべての人に働くよろこびとのぞみを」のことばが重たくのしかかってきました。

     この夏、ささやかながら利用者にボーナスを支給しました。全員こころより喜び、職員に感謝をして受け取られます。ボーナスをもらったことがうれしく、入所の世話になった福祉事務所のケースワーカーに何度も報告をした利用者もいます。また、指導員に「ボーナスをもらったから今晩奢ったげるわ」という者もいます。このことが自立の一環なのだなーと思いながら、退職して始めて、汗水流して働いて得た金の尊さを知ったしだいです。




    アゴラ【1】― みぶ障害者授産所より ―


     法人の各施設の話題をとりあげます。一職員の立場で福祉への提言を自由に語りかけていきたいと考えています。ちなみに、アゴラとは古代ギリシャにおける都市の広場のことです。都市生活の中核で、政治・経済・文化の中心地ともありました。そこで、市民は自由に語り合い、新しい世界を築いていったものと考えます。

     本年4月より障害福祉施設に支援費制度が導入された。この制度の目的は障害ある人の自己決定を基本とした自立生活の確保にあると認識しているが、世の中理屈どおりになかなかいかないものである。

     ともあれ利用者に対し、制度変更について繰り返し説明してきたが、「施設を追い出されるのではないか」との不安感が先にたち、「対等の立場での契約だとか、選択の自由がある」とか制度の趣旨をいくら説明しても受け入れる余地がない。「従来とかわらないから」といって、はじめて納得してもらったという状況である。

     高齢の利用者にとっては、日ごと体力が劣っていく現実の前で、日々施設に通うことが目的であり生活の全てになっている。将来のことはおろか、明日のことなど考える余裕はない。一日の作業がおわり、タイムカードをおしながら、今日も元気に過ごせたなーとほっとして帰宅されている。禅の言葉に「一日不作一日不食・(一日なさざれば一日食らわず)」とありますが、利用者の後姿はまさにそのような感じがいたします。また、単身者にとっては、施設の昼食がメインです。朝食べてこず、夜はラーメンという方もおられます。今年の夏は不順で、本当に利用者の健康が心配でした。

     どんな重度な障害を有していても働くことが生きがいにつながる、働くことの喜びを得ることのできる、そんな施設づくりを利用者とともにめざしています。




    編 集 後 記


     当法人も一〇事業所、職員七五人を抱える市内有数の社会福祉法人となった。

     当初、法人内部の連絡誌を発行しようとの意見もあったが、法人設立の趣旨からいって、常に未来に向け一歩先んじた視点を持つ必要があるのではないかということになり、関係機関・施設や大学等への啓発を主体に編集することとなった。こうした新しい視点から編集長は新任のみぶ障害者授産所長が当たるとともに、編集の主体は各施設の若手が担当することとなった。若者の視点で夢ある情報を発信し続けたいと考えている。

     よって、順次とりあげる施設の紹介についても、今日までの実績を踏まえ、新しい提言を盛り込んでいくこととする。また、次号からは法人関係者や投稿を主体に夢を語るということで、これからの福祉のあり方について大胆な提言も掲載していきたいと考えている。

     編集者としては創刊号としての位置づけであるが、法人の機関紙としては既にKISWEC2号が発行されているところであり、法人の歴史を重んじ、あえて第3号として発行したところである。


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