KISWEC通信 No.6 (2004年10月1日発行)

開発的福祉をめざす
〜ある授産施設の取組みから学ぶ〜
理事長  所 久雄


 授産事業にかかわるようになってから、もう三〇年を超えてしまった。最初、知的障害のある人々の作業が自主製品を作ってバザーに出すことと、簡単な下請け作業に限られているのを見て、このままではいけないと強く感じたのであった。以来三〇年、同じ下請け作業であっても出来るだけ工程の難しい複雑なものを請け、職員・利用者が共に補助具(冶具)を工夫し、あわせ複雑な機械を導入し、作業内容の充実と一般社会に比較して決して劣らない作業効果をあげたいと努力してきた。職員と関係者の努力には頭の下がる想いであるが、前途は尚遠しの感で一杯である。

 しかしながら悪戦苦闘とも思える三〇年を省みて、その中に授産事業なるが故に示唆されるものが沢山あることに気づかされている。その最も大きいものは事業自体が全て「開発事業」であるということである。大きな作業課題を前に利用者がどこまでこなしていけるか。相手の能力の発見と、その能力をどこまで引き出し軌道に乗せていくか、職員の創意と工夫を主とする作業手段の開発が問われてくる。開発のニーズのあることやヒントを与えてくれるのは利用者一人ひとりである。

 もともと開発とはラテン語のdeveloから来ていると思われるが、それは「被いをはがす、露わす」という意味である。対応する者の感度や能力が問われてくる。「必要は発明の母である」とはよくいったもので、ニーズと、それに対する対応の中で開発は進んでいくのである。ちなみに英語のdevelopmentは≪1≫発展する、と同時に≪2≫開発するという意味を有している。まさに発展することは開発することに他ならないのであると思うのである。

 当法人の重要なパートナーであるスイスの生んだ教育者ペスタロッチはその教授法について、開発主義的教授法を強調し、児童、生徒の心性を開発し、自己活動を重んじることを教えた。わが国では明治一〇年代後半から特に注入的教授法に対して、ペスタロッチの開発的教授法として唱導されたのであったが、今はいずこへいってしまったのだろうか。何でもマニュアル、それがなければ何も出来ないという中からは新しいものはなかなか生まれないのではないかと危惧するのは私一人だけだろうか。

 福祉は利用者と対応者の間で呼応関係に基づく「開発事業」であると考えるのである。それは単に新製品を開発するというようなことに止まらない。お互いの隠し持つ能力を開発し、育て、高めていく、それはまた継続的な教育事業でもあると考えられる。だから、福祉は面白いし、遣り甲斐のある仕事になるのでないかと思うのである。




法人施設紹介―番外編―

「開発的福祉をめざす」 〜みぶ障害者授産所の取組から〜

京都市みぶ障害者授産所 所長 高木 進


 施設の紹介は次号に譲るとして、今回は、「開発的福祉」をキーワードとして、主として補助具(冶具)の開発についての報告としたい。

 当施設の利用者は、市民が車椅子駅伝などで想像されている障害者のイメージとは異なり、脳性まひや脳卒中の後遺症による片麻痺などで殆どの利用者は、企業就職が困難な状態にある。

 当施設においては、昭和六一年の創設以来、『働く』ということを中心に据えた援助活動と、そのための条件整備、すなわち心身の健康の保持、生活環境の整備、収入の安定などに取り組んできた。

 そのうち、授産事業を振り返ってみると、利用者一人ひとりの能力とニーズ、心身の状況を踏まえ、授産の安定受注と収益の向上を目指してきた。授産作業の歩みを振り返ってみると、≪1≫単純な作業から複雑な作業へ≪2≫少量の作業から多量の作業へ≪3≫数種の作業から多種の作業へと移り変わってきている。その変化の中で授産収益も増加してきた。作業の変化に対応できた背景には利用者の意欲の向上も大きいが、作業用の補助具の開発や電動工具・機械の導入が大きかった。授産における補助具の特性や使用目的としては≪1≫確実性・正確性≪2≫安全性≪3≫効率化等が考えられるが、重要なのは、利用者一人ひとりの可能性(身体的・精神的能力等)を引き出し、その能力を生産に結びつける「装置」としての役割ではないかと考えている。そして、補助具の開発と活用の中にこそ授産活動の本旨があるものと確信している。

 電動工具と補助具の開発の歩みをみると、当初は補助具の単独使用であったのが、現在では両者を併用しており、補助具も単純なものから複雑な構造へ、木製から金属製へと変化してきている。これは、業者の作業への要求が≪1≫複雑な加工≪2≫正確な作業≪3≫多量の製造≪4≫安定した品質へと変化し、それに対する的確な対応を図ったもので、その結果、安定受注と授産収益の大幅な増加をもたらすこととなった。

 その一例が表1である。補助具の開発と電動工具の整備が作業内容の多様化と増収をもたらしていることが分かる。


 補助具・電動工具の導入はこれらの効果のほかに、利用者自身が「無理だと思っていた仕事が出来る」「補助具を使用することで、作業にとどまらず、生活の範囲が拡大できる可能性を見出すことができた。」などの、メリットも大きかった。

 最後に、補助具の開発、電動工具の使用・機械化を進めていくうえでの課題として、≪1≫職員の、機械や電気などに対する専門知識取得の必要性≪2≫機械のランニングコストと収益とのバランス≪3≫設備投資に見合う作業収益の確保と当該作業の継続性の見極めなどがあげられる。

 施設創設以来一八年余、紆余曲折をしながら、仕事量については他の施設にお願い(外注)するまでになってきたが、収益面では、一番利益率が高い作業でさえ、アルバイトの賃金にも見合わない状況である。減価償却費や光熱費などの必要経費など落としようがない。職員の生産高も還元しても、利用者に支払う賃金は最低賃金の半分も満たない。これが、福祉施設における授産の実態であり、「開発的福祉」よりも「革命的福祉」が必要だなどと苦笑いしているところである。

 こうした状況を踏まえ法人の理念である「開発的福祉」の更なる発展を図るため、今般、法人施設が団結し研究会を立ち上げた。とりあえずは、建築資材の加工について、共同受注と分業の取り組みを始めたところであるが、将来は、「地球環境に寄与」することをキーワードに、≪1≫特許を取れるような自主製品の開発と販売≪2≫生活賃金の確保≪3≫保護的福祉からの脱却を目指し、例えば、廃プラ(ペットボトルなど)や古紙の再生・加工、生ゴミの商品化などを研究していきたいと考えている。




アゴラ【4】―法人授産連絡会より―


 理事長に会うたびに言われる「開発的福祉・事業」ということばについて、その耳障りの良さや新鮮さもあり、理解しているつもりで過ごしてきた。今般、その実践例を紹介するとなって何もわかっていないことに気がついた。

 福祉工場を除き、法人の四つの授産施設のどこをとっても理事長の期待している開発事業として自慢できるものはない。他の施設に比べての違いは、授産事業の殆どが下請けで、機械が多く設置されているぐらいである。

 作業工程の一つ一つを見てみれば、一人ひとりの利用者に合わせた作業種目の選択や冶具の開発或いは機械の導入はしてきたが、企業からは、効率化に向けての改善意欲の低さが指摘されるに違いない。一方、福祉のオーソリティからは、「開発的」ということばに、非常な違和感と嫌悪を抱かれるのではないかと考えている。

 難しいことはさておき、法人の各施設において心がけてきたのは、利用者一人ひとりの潜在的な能力(可能性)をいかにして見つけ、それを引き出し、生かせるかということである。そして、出来ることなら一円でも多く収益をあげ、利用者に還元したいと考えてきた。そのため、作業種目の選定をはじめ工程の工夫や冶具の開発、そして電動工具の導入を図ってきた。

 このことを開発的取組みというならそれでよし、福祉的取組み或いは教育的アプローチというなら、それもよし。われわれは、「当たり前のこと」をしてきただけである。

 けれど、ひるがえって考えれば、この「当たり前」のことを考えねばならないところに今の福祉の課題があるのかなーとも考えている次第である。



 アゴラとは,古代ギリシャにおける都市の広場のことで,そこで市民は自由に語り合い,新しい世界を築いていったものと考えます。
 アゴラにちなみ,法人の各施設の話題を,一職員の立場で取り上げています。


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